気配と余韻

さよならのメールを送ったあの日、あの子はメールで返事をするのではなく何の前触れもなくボクの働いている店に現れた。まったく予想していなかったわけじゃなかったけどかなり驚いたな。
その時に寒そうにしていたあの子にお客さん用に用意してあるブランケットを貸してあげたんだけど、それにすっぽりくるまっているあの子の姿は、二人がまだ恋人同士だったころに彼女が送ってくれた、部屋で毛布にくるまっているセルフポートレイトの姿に似ていたってことにさっき気がつきました。あの写真はオレが持っているあの子の写真の中で一番好きな一枚なんだよ。
店の中なのでその話もできず、「仕事が終わったら飛んで行くから近くのバーで待っていてよ」とメールするボク、「外で会ったら帰れなくなっちゃう気がするから無理、最後にちゃんと顔が見られてよかった」とメールを返すキミ。終電に間に合おうと間に合うまいと帰す気はなかったんだけどさ。
帰り際に店の外まで送ったボクに、あの子は最後のキスをねだったんだけど、だれの目も気にせずに強く抱きしめてキスをする勇気が僕にはなくて、どこかぎこちないキスしかできなかった、ダメなやつ。
少し迷っているようだったけど、結局彼女はそのまま帰ってしまった。たぶんそれがもう答えになっていたんだよね、そのあといくら電話で話してもその答えはかわらなかった。あ〜ぁ

おおはた雄一「スロートレイン#2」

忘れようとしたことも 忘れてしまった頃には
懐かしくなるよ スロートレイン


song book

song book